背景

 死亡時に死因を確定することは、医学の基礎であり、死因を追求することにより医学は進歩します。死因判断の基本は解剖にあり、病院内の死亡では病理解剖が、病院外の死亡で事件性が疑われない場合には行政(承諾)解剖が、事件性のある場合には司法解剖がその重責を担っています。しかしながら、本邦においては、欧米諸国に比べ、専門の知識を持つ医師による剖検率の低さが問題となっています。これには、監察医制度がごく限られた地域でしか行われていないという問題とともに、病理学あるいは法医学を専門とする医師の不足が要因として挙げられます※1。日本のどこに居住していても、等しく国民として精度の高い死因究明制度の恩恵を受けられるべきであり、正しい死因診断は、死者の尊厳を擁護することに他なりません※2。病理学あるいは法医学を専門とする医師を養成することは急務ではありますが、臨床医師ですら2万4千人が不足している現状を考えると、容易ではありません。ところで、解剖されない遺体は、体表面からの観察など限られた手段(検案)で死因の判定がなされています。当然のことながら死因判定が難しい場合も多く、診断手段の充実が求められています。  さて、画像診断を死因診断に応用する試みはX線の発見以降行われていました。そしてわが国では1999年に放射線医学研究所の江澤らによってオートプシー・イメージング(Ai)が提唱されました。これは解剖前にCTなどの画像検査を行い、その情報を解剖医に伝え、解剖の精度を向上させる、あるいは検案時に画像所見を加えることで、検案の精度を向上させることを目的としたシステムです※3。すでに、千葉大学、群馬大学、佐賀大学などではAiセンターが立ち上がりました。しかしながら、これまでのところAiの取り組みは各施設でばらばらであり、統一的な撮影技法、読影に必要な知識の確立・普及、診断の精度管理などは今後の課題として残っています。

  • ※1 法医学教室の現状 日本法医学会庶務委員会 平成19年
  • ※2 日本型の死因究明制度の構築を目指して 日本法医学会 平成21年1月
  • ※3 日本放射線専門医会・医会のAi(Autopsy imaging)に関する提言 日本放射線科専門医会・医会 平成21年9月
Aiの概念、歴史
海堂:Aiの概念、歴史(オートプシーイメージング読影ガイド:分光堂)より改変引用